虫による皮膚病

疥癬

 疥癬は古くて新しい病気です。昔からヒゼンダニといわれて皮膚病の代表的なもののひとつでした。よく温泉に行くと皮膚病の効能が書いてありますが硫黄の強い温泉は確かに殺ダニ効果があるため(少し前までムトーハップという硫黄入浴剤が疥癬の時に用いられましたが、現在は諸事情のため販売中止になっています)昔から多かったヒゼンダニの湯治に用いられたわけです。だから全ての皮膚病に効くわけではなく温泉で暖まりすぎるとかゆくなる皮膚病も多いため湯治必ずしも善ならずということは憶えておいてください。色々な皮疹形態をとりますので注意が必要です。普通の湿疹の治療をしても治らないまたは悪化する場合や、家族の中に何人も同じような湿疹が出てきたら、必ず皮膚科で疥癬がいないかどうかを確かめるようにしてください。治療はオイラックスや安息香酸ベンジルなどが用いられましたが。現在はイベルメクチンという内服薬が健康保険で投与可能になりましたが、きちんとした診断を皮膚科で受けた上でのむようにしましょう。また今までアタマジラミ等に用いられてきたスミスリンという薬剤のローションが,疥癬適応のある「スミスリンローション」として発売されています。治療法に選択枝が増えてきました。

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疥癬の虫体

疥癬の症状

ツツガムシ病

 聖徳太子が隋の煬帝に宛てた国書に「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す、恙無きや…」と記したことは有名ですが、この「恙(つつが)」とは現代でいうツツガムシというダニのことです。この虫に刺されると全身の斑状の赤みと39-40度台の高熱が出て、普通の抗生物質は効きません。ミノマイシンという抗生物質などが効果的で頻用されます。元々関東より北に多い病気でしたが、現在では全国から報告があります。秋から初冬にかけて好発します。ツツガムシは野ネズミなどを宿主としますのでほとんどの場合山に入ったときなどに刺される場合が多いのですが、稀に都市部で野良犬などを媒介して刺されることもあるので注意が必要です。

ツツガムシの刺口

ケジラミ 

 主に人の陰毛部に寄生しますが,腋毛などに寄生することもあります。性行為により感染するケースが多くを占めます。乳幼児に寄生することはありませんが、小児のまつげや、乳児の頭髪に付着した例が報告されたことはあります。これは感染した大人から風呂などで感染したものと考えられます。治療はスミスリンパウダーまたはシャンプーが用いられます。確定診断には下図のような虫体を顕微鏡で確認する必要があります。

ケジラミの虫体

アタマジラミ

 主に人の頭部に寄生します。保育園、幼稚園、小学校などで児童間の感染がほとんどですが、気がつかないうちに家族内感染を起こしている場合もあります。虫体自体は見つけにくいのですが、毛髪に付着した卵を顕微鏡で確認すれば確定診断できます。ふけが毛髪に付着すると一見同じように見えることがあるので顕微鏡検査は必須です。治療はスミスリンパウダーまたはシャンプーが用いられますが、家族全員で一度に治療することが重要です。

ライム病(マダニ咬症)

 病原体(ボレリア)を保有する野ネズミ、鳥に吸血し有毒化したマダニにより媒介される病気です。マダニは吸血すると直径1cmにも達しますが、吸血前には小さくてよく見えないこともあります。感染初期にはマダニ刺咬部を中心に紅斑(遊走性紅斑)が出現し。経過とともに遠心性に拡大します。筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感など風邪様症状を伴うこともあります。診断がつかずに放置していると慢性期に入り慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性脳脊髄膜炎、慢性関節炎などの症状が出現します。早期に血清診断を行いアモキシシリン、ミノサイクリン、セフトリアキソンなどの抗生物質で治療します。マダニ自体は決して珍しいものではなく広島でも「急にホクロが出来た」と言ってマダニを皮膚につけたまま受診したり、自分でむしり取って持参する患者さんなどが時々おられます。全てのマダニが病原体を持っているわけではありませんがかまれたときは口器が皮膚の中に残らないように除去する必要があり局所麻酔してメスで皮膚ごと取り出すこともあります。またマダニに咬まれたことにより、日本紅斑熱(はしか様の皮疹と高熱が出ます)やSFTS(重症熱性血小板減少症候群)といった病気を発症することもあるので、咬まれたときは放置しないで、皮膚科にご相談下さい。

ライム病の症状(慢性遊走性紅斑)



 

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